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君と描く蒼い月夜
第二章 失意の帰郷
列車が緩やかな勾配を下るたび、車輪のきしむ音が一定のリズムで耳に響く。 窓辺にもたれながら、流れていく景色をぼんやりと眺めていた。 赤茶けた屋根の家々が遠ざかり、代わりに野原と風車の並ぶ小さな集落が近づいてくる。 そのどれもが懐かしくて、で... -
君と描く蒼い月夜
第一章 蒼い満月の伝承
蒼い満月は、ただ空を照らすだけのものではない――。 その夜、天と地の境はほどけ、世界がひとつになる。神に願いが届けば「思い出づる《おもいいずる》国」への扉が開き、そこでは死者と再び会えた者もいれば、天啓を授かった者もいたという。翼を与えられ... -
君と描く蒼い月夜
君と描く蒼い月夜
あらすじ かつて愛した白猫・スーを失った彩飾師のセナは、心にぽっかり空いた穴を抱えたまま、仕事にも日々にも迷い続けていた。 そんなある蒼い満月の夜—— 願いが叶うという「思い出づる国」で、彼女は人の姿となったスーと再び出会う。 記憶をたどるよ... -
君と描く蒼い月夜
第七章 君と描く蒼い月夜
二人は静かに実家へ戻った。 庭のベンチは、かつてスーが日向ぼっこをするのが、お気に入りだった場所。 今は満月の光がやさしく庭を照らしている。 青白く揺れる木々の葉、蒼い光をまとうゼラニウムの花々。 二人は並んでベンチに腰を下ろし、私は空を見... -
君と描く蒼い月夜
第八章 再出発
カーテン越しに、淡く揺れる光が差し込んでいた。 東の空はうっすらと朱を帯び、夜の帳を押しのけるように、朝が静かに近づいている。 (……夢、だったのかな) ゆっくりと身を起こし、ぼんやりと窓を見つめた。 胸の奥にはまだ熱が残っている。 あれはただ...