MENU

『天使いとドラゴン』

静かに瞬く星空の下、出会ったのは、掟に縛られた天使と、

“災厄”と呼ばれた黒きドラゴンでした。


これは、世界の決まりを超えて――

誰かを想う心が導いた、優しい物語。

目次

1話 星の問いかけ

天の国に生きる天使たちは、地上のドラゴンに関わってはならない。

それが、天界の絶対の掟だった。

この世界でドラゴンは”災厄”と呼ばれ、忌み嫌われる存在だからだ。

ある晩、一人の天使が夜空を見上げてつぶやく。

「もしドラゴンが本当に悪しき存在なら、なぜ星は彼らにも光を与えるのだろう?」

その問いは、誰にも届かないまま、静かに夜に溶けていった。

2話 傷ついた竜

天使は、胸を締めつけるような叫びに導かれ、こっそり地上へ降りた。

森の奥深くで、傷ついた黒銀のドラゴンが倒れていた。

翼は裂け、鱗は剥がれ、血に染まっていた。

「人間に襲われたの……?」

問いかけに、苦痛に顔を歪ませながら、ドラゴンはかすかに笑う。

「……もう慣れたさ。俺たちは、そういう存在だからな。」

天使は言葉もなく、その手をそっと伸ばす。

光が流れ出し、ドラゴンの傷を癒してゆく。

「なぜ助ける?」

「……わからない。ただ、苦しむあなたを、見捨てたくなかった。」

3話 密やかな夜、

天使は、それからも密かに地上へ降り、ドラゴンと語り合った。

空に輝く星。風の匂い。森に響く声。

天界にはない命の気配を、天使は少しずつ知っていく。

「天界は平和で美しいけれど、なんだか冷たい。
ここは……夜風も、あなたの鱗も、あたたかく感じる。」

「……変なやつだな。俺は“災厄”と呼ばれているんだぞ。」

「それでも怖くはない。
あなたが夜空を翔ける姿は、きっと煌めく流れ星のように輝いて見えるでしょうね。」

ドラゴンの心に、わずかな温もりが灯った。

そして彼らは、誰にも知られぬ夜の中で、そっと寄り添った。

4話 剥奪される翼

天界の住人は、彼女の背信を見逃さなかった。

ある日、天使は裁定の間に連れ出される。

無数の冷たい視線と、金色の瞳を持つ天使の長。

「地上へ干渉し、”災厄”のドラゴンと関わるなど、天使としてあるまじき行為だ。」

彼女は静かに膝をつき、目を閉じた。

「……もし、傷ついた者を救うことが罪であるなら、私は喜んで罰を受けましょう。」

その瞬間、光が背を灼き、白銀の翼が燃え、静かに崩れ落ちていく。

天使は、翼を失った。

5話 追放と再会

翼を失い、天から地上へ落ちていく彼女を、風が容赦なく打つ。

それでも、不思議と恐怖はなかった。

その時、夜空を裂いて現れた影。

黒きドラゴンが光の流星のように舞い降り、天使をその背に受け止める。

「バカ野郎! お前、何を考えているんだ!」

「……翼を失ってしまった。もう、私は天使じゃないの。」

ドラゴンは、そこにあったはずの純白の翼が、完全に消え去っていることに気づいた。

彼の胸に怒りがこみ上げる。

「そんなことが……許されるのか。」

天使は静かに夜空を見上げ、囁く。

「思ってたとおりだ。
キミが空を飛ぶ姿は、煌めく流星みたいだったよ。」

ドラゴンはしばらく沈黙した後、呆れたように言った。

「お前、やっぱり変なやつだな。」

彼の背は、あの日と変わらず温かかった。

6話 翼なき旅立ち

天使の背に、翼はもうない。

「翼のない私は、この世界にいてもいいのかな……?」

「お前がいる場所が、お前の世界だ。
誰の許しなどいるものか。」

そう言ってドラゴンは天使を背にしたまま、空へと高く舞い上がった。

そうだ、翼を失ってもドラゴンが一緒なら、まだ飛べる――。

黒き竜と、翼を失った天使。

ふたりは静かに夜を翔けていく。

月だけが、それを見守っていた

あとがき

「正しいこと」と「やさしいこと」は、いつも同じとは限らないですよね。

この物語は、決まりや役割を越えて、ドラゴンのために手を差し伸べた天使と、

孤独の中でその手を受け取ったドラゴンの小さな奇跡を描きました。

翼を失った天使、災厄と呼ばれた竜。

彼らが夜空に交わるとき、世界は少しだけ変わったかもしれません。

「誰かを想う心が、世界を少しやわらかくする」

そんな気づきが、ほんの少しでも届いていたら嬉しいです。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

この記事を書いた人

目次