プロローグ
この世界には、誰にも知られていない“理”がある。
それは、人が「生の苦しみ」に耐えきれず、終わりを望んだとき――
その声に、ひとりの死神が応えるというものだ。
その死神は、命を奪うためだけに現れるのではない。
苦痛のなかで、もう一歩も前に進めなくなった者たちに、やさしい終わりを与えるために訪れる。
名もなく、歴史にも残らず、ただ静かに現れては、静かに去ってゆく。
彼女の姿を目にするのは、この世の境を歩く者たちだけ。
――これは、とある病弱な少女と、その死神が出会ったときの話。
友達もなく、夢も手にできぬまま、ベッドの上で季節を見送ってきた孤独な少女。
そして、人の生も死も等しく見送ってきた、白銀の鎌を携えた美しい死神。
彼女たちは、“終わり”を前にして、たった三日だけの友情を交わすことになる。
それは、短くも、確かにあたたかな時間だった。
交わるはずのなかった二つの魂が寄り添い、小さな奇跡を灯す、静かな春の記憶。
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