愛犬のスーちゃん。
もう、いなくなってしまったけど、今でも目を閉じると鮮明に思い出す。
あれは、曇り空の午後だった。
訪れたペットショップの奥、ガラスケースの中で、元気に跳ねる一匹の子犬。
他の子たちが眠たげに身を寄せ合うなかで、その子だけは好奇心いっぱいにこちらを見つめていた。
まあるい目と、小さな舌で指先を舐める仕草。その瞬間、私は心を奪われた。
私は、迷うことなく「この子にする!」と決めた。
元気いっぱいのスーちゃん
「スー」と名付けたその子は、お転婆な女の子で、部屋中を駆け回った。
お気に入りのスリッパをくわえて逃げ回り、ベッドに飛び乗っては満足そうに丸まる。
夜になると、ぐうぐうと大きなイビキを立てながら、スーちゃん専用のマットですやすやと眠った。
私が仕事から帰宅すると、嬉しそうに尻尾を振りながら駆け寄ってくる。
疲れた日も、心が沈んだ夜も、スーちゃんはいつも私のそばにいてくれた。
どこもかしこもスーちゃんの毛まみれにされてしまったが、それはご愛嬌だ。
寒がりであったかいスーちゃん
スーちゃんはいつも元気でモフモフなのに、とても寒がりだ。
冬になると、スーちゃんはこたつのそばを離れなかった。
時折、布団の隙間から「ぐぅ〜」と鼻を鳴らす音が聞こえてくる。
そっとのぞくと、丸くなった小さな体がぬくもりの中に沈んでいる。
でも私が落ち込んでいるときには、こたつから出て、そばに来てくれた。
とてもあったかくて、とても優しい子だ。
私の布団にこっそり潜り込んできたときは、一緒に温めあって眠った。
じっとしているスーちゃん
年月がすぎ、スーちゃんは次第に歩くのがゆっくりになっていった。
以前のように部屋を駆け回ることはなくなり、こたつのそばで静かに座ることが多くなった。
ある日、スーちゃんは足を痛めて床で動けなくなっていた。抱き上げると、震える体が腕の中に収まった。
ごめんね、怖かったね。
その日から、スーちゃんは少しずつ歩くのが難しくなって、やがて動けなくなった。
でも、スーちゃんはそこにいるだけで変わらず私を癒してくれた。
優しく撫でると、小さな鼻がピクピクと動き、安心したように目を細める。
その顔が愛おしくて、私は会うたびにスーちゃんのそばに寄り添った。
そこにいるだけで、そばにいてくれるだけで良かった。
思い出の中のスーちゃん
ある夜、スーちゃんは静かに息を引き取った。
いつものようにぐうぐうとイビキの音を立てて眠っていたのに、気づいたときにはもう、動かなくなっていた。
スーちゃんの寝顔は穏やかだった。まるで幸せな夢を見ているかのように。
スーちゃんがいた場所には、今もあたたかな記憶が残っている。
こたつのそば、布団の中、私を迎えてくれた玄関――どこを見ても、スーちゃんの思い出がある。
スーちゃんの最後を思い出すたびに、悲しい気持ちになる。
でも同時に、心の中にぽっと灯るような温もりも広がった。
ありがとう、大好きなスーちゃん。
スーちゃんと過ごした日々は、私の宝物だよ。
あとがき
「パグのスーちゃん」は、現実に飼っていた愛犬との思い出を元にした物語です。
スーちゃんが私に与えてくれた愛情、癒し、そして別れの痛み——そのすべてが、今も心の中で生き続けています。
もし、これを読んでいるあなたにも大切なペットがいるなら、どうか一緒に過ごす時間を大事にしてください。
別れはいつか訪れます。けど、共に過ごした時間は、確かに私たちの中に残り続けます。
「ありがとう」を、ちゃんと伝えられる今を、大切にしたい。
そう思いながら、この物語を綴りました。