少年は、再び蒼月の森を目指して歩き出した。
かつて、あの小さな妖精と並んで歩いた森の小径。
風にそよぐ葉の囁きが、どこか懐かしく胸を締めつける。
深く、奥へ。
優しい霧の中を踏みしめながら、少年は静かに歩を進めた。
やがて──
あの湖畔へ辿り着いた。
かつて妖精たちが暮らした、美しく、静かな水辺。
今は誰の声もなく、ただ風さえも息をひそめたような静寂が広がっている。
少年はゆっくりと歩み寄り、湖畔の土を見つめた。
──そこに、咲いていた。
小さな、小さな藍色の花が──
いくつも、確かに。
夜が訪れ、月明かりが湖面を染めると、
藍色の花々は淡く、静かな光を放ち始めた。
まるで、夢の中で見た星たちが、大地に降りてきたかのように。
けれど──
妖精の姿は、まだ現れなかった。
少年は、そっと花のそばにしゃがみこんだ。
静かに手を伸ばし、花びらの輝きをやさしくなぞる。
「……まだ会えなくても、いい。
いつかまた、君に会える日まで──
僕がここを守る。もう二度と、過ちが繰り返されないように」
そう誓いながら、少年は、藍色の光に包まれた静かな夜空を見上げた。
星たちは、静かにまたたいていた。
まるで、その誓いにそっと応えてくれるかのように。
少年は、これからも花を守り続けるだろう。
そして、いつか──
あの小さな羽の揺らめきを、再びこの湖のほとりで見つけるその日まで──
蒼月の森は、静かに、静かに、彼を包んでいた。